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東京地方裁判所 平成元年(ワ)15773号 判決 1997年6月12日

原告

全安田生命労働組合

右代表者執行委員長

首藤信次郎

原告

原田恵子

原告

飯島時子

原告

佐分利よし子

原告

田辺文子

原告

杉木政枝

原告

下畑武代

原告

佐藤法子

右原告ら訴訟代理人弁護士

仲田晋

清水恵一郎

鴨田哲郎

被告

安田生命保険相互会社

右代表者代表取締役

岡本則一

右訴訟代理人弁護士

太田恒久

宇田川昌敏

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告全安田生命労働組合(以下「原告組合」という。)と被告との間において、下総我孫子営業所及び中野営業所所属の営業職員たる組合員の賃金は、別紙<略>労働協約目録記載の労働協約と同一内容で支払われるべきことを確認する。

二  原告組合を除くその余の原告らと被告との間において、被告が同原告らに対し、別紙労働協約目録記載の労働協約と同一内容の賃金の支払義務のあることを確認する。

三  被告は別紙<略>差額賃金目録記載の各原告に対し、同目録記載の金員及びこれに対する平成元年一〇月二六日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

被告は、営業職員らの給与等について定めた原告組合との別紙労働協約目録記載の労働協約を解約し、新たにこれらを盛り込んだ就業規則を定めた。

本件は、原告組合が右労働協約の解約・就業規則の制定は協議約款等を無視し、被告において一方的に不利益変更を行った不合理なものであると主張して、右制定就業規則が原告組合の組合員には適用されないことの確認を求め、また、原告組合の組合員である原告原田恵子、同飯島時子、同佐分利よし子、同田辺文子、同杉木政枝、同下畑武代(以下「原告下畑」という。)及び同佐藤法子は、昭和六三年八月支給分から平成元年一〇月支給分までの差額賃金(当月の成績を前提として右労働協約と同一内容で算出した得べかりし賃金額と右就業規則に基づいて実際に支給された賃金額との差額)の支払を求めた事案である。

(争いのない事実等)

一  当事者関係

1 被告

被告は、明治一三年に安田善次郎らが設立した共済五百名社をその初めとし、その後、昭和四年に社名変更された安田生命保険株式会社を前身として、昭和二二年に設立された生命保険業を営む相互会社であり、本社を東京都新宿区<以下略>に置くほか、平成元年三月末当時において、全国に九〇か所の支社・八七〇か所の営業所を設け、職員六四六四名・営業職員一万六八八八名を擁し、約八八・五兆円の保有契約高を有していた。

2 原告ら

原告組合は、昭和四七年八月、当時の従業員区分では月掛営業職員で、いわゆる営業管理職員に該当する月掛養成所出身者及び月掛保険部採用の出身者(以下、総称して「月掛養成所出身者」という。)で組織された労働組合である。

右にいう月掛養成所・養成所は、いずれもいわゆる営業管理職員の養成を目的として被告が設置した教育訓練機関である。原告組合の組合員数は、平成二年二月当時、一二九名であり、うち職員が一一七名、営業職員が一二名である。

原告組合結成以前には、昭和二一年に被告の内勤員をもって組織された安田生命内勤員組合(以下「内組」という。)、昭和二二年に被告の外勤員をもって組織された安田生命外勤職員組合(後に安田生命営業職員組合に改称。以下「営組」という。)、昭和三二年に営組から分離独立し、被告の月掛外勤職員をもって組織された安田生命外勤職員組合(後に安田生命月掛労働組合に改称。以下「月労」という。)の三組合が併存し、これら三組合は昭和四〇年に、組合統合を究極の目的として、安田生命労働組合協議会(以下「安田労協」という。)を結成していた。そして、右三組合は、昭和六二年六月に統合し、安田生命労働組合(以下「安田労組」という。)が結成された。安田労組の組合員数は、平成二年二月当時、約二万二九〇〇名で、うち職員が約五七〇〇名、営業職員が約一万七二〇〇名である。

原告組合は、昭和六〇年以降、月労執行部を批判し、月労組合員に月労からの脱退及び原告組合への加入を呼びかけるなど右組合とは対立状態にあったが、三組合統合による安田労組結成後は、安田労組は会社の味方であるとしてその運動方針等を批判している。

なお、原告組合においては、原告組合と安田労組との合併の是非を巡って対立が生じ、昭和六二年九月の定期大会において、合併等を企図した書記長らが解任され、右元書記長らはその後原告組合を脱退している。原告組合の組合規約によれば、労働協約の締結は執行委員長の業務と定めている(同組合規約二七条)。

原告組合を除く、その余の原告らは、いずれも被告の営業職員・個人職員に該当し、その資格はいずれも昭和六二年当時専業職員であり、また、いずれも原告組合の組合員である。右原告らの資格、勤務している営業所、原告組合加入年月日は別紙<略>組合員資格表記載のとおりである。

なお、被告における営業職員の給与の支給日は毎月二五日である。

二  被告の営業組織及び従業員区分等

1 被告の営業組織

被告にあっては、従前、個人を対象とした個人保険の営業(他に、企業を対象とした企業保険の営業があった。)を業務部が所管し、全国に支社・営業所を設置して外勤職員(いわゆるセールスマン)を採用し、年払・半年払・団体扱の保険営業を営んできた。

その後、昭和二六年ころに米国から月掛(保険料の月単位の支払)方式が導入されるに至ったが、右月掛方式は、地域を特定し主としてその地域内で、当初は一般家庭を中心に生命保険の訪問販売を行い、併せて毎月の保険料の集金をも行うなど、業務形態が従前のものとは著しく異なっていた。このため、被告は、昭和二九年に、業務課とは別に月掛保険部を創設し、管下に、業務部が設置している支社・営業所とは別個に、六大都市を中心に月掛営業店所を設置して、月掛保険のみを取り扱う外勤職員を採用し、月掛方式の保険営業をなすこととなった。

ちなみに、被告内では、業務部が所管する保険営業をプロパーあるいはプロパー部門と呼び、月掛保険部が所管する保険営業をデビットあるいはデビット部門と呼んでいた。

被告は、その後、プロパー支社とデビット支社の統合・再編を行う前段階として、昭和五三年四月一日、本社の管理部門である業務部と月掛保険部を統合し、営業推進部を創設した。

2 従業員の区分

一般に、生命保険会社の従業員は、名称の違いはあるものの、その従事する職務により、内勤員と外勤員とに区分けされている。

被告においても、職制分掌規程により、従前は、内勤員(人事部採用の者)と外勤員(業務部採用の者)に区分されていた。

その後、昭和二七年の月掛保険部創設に伴い、外勤員は、業務部採用の外勤職員と月掛保険部採用の月掛外勤職員とに区分され、その後、右外勤職員は営業職員に、また月掛外勤職員は月掛営業職員と改称され、適用される就業規則も内勤員には内勤員就業規則を、営業職員には営業職員就業規則を、また月掛営業職員には月掛営業職員就業規則をそれぞれ適用することになった。

なお、被告の外勤員(営業職員・月掛営業職員)は、その従事する職務によってさらに、専ら、生命保険契約の募集・集金・保全等に従事し、個人の業績を基礎として算定される比例給与適用者(一般には「保険外交員」と呼ばれている。)と、自らは生命保険契約の募集・集金・保全等には従事せず、専ら、右保険外交員の採用・育成・指導・管理に従事する固定給与適用者に区分されるようになった。

ちなみに、被告にあっては後者に該当する外勤員を、前者の外勤員と区別する必要上、便宜的に営業管理職員と称していたが、職制分掌規程で定めた従業員区分ではないので、後者に該当する外勤員にも営業職員就業規則・月掛営業職員就業規則が適用されていた。

その後、被告は、昭和五九年一〇月一日に従業員区分を改訂し、固定給与適用者である内勤員と右のいわゆる営業管理職員を一本化して職員とし、比例給与適用者である営業職員・月掛営業職員も同じく一本化して営業職員とした。同時に、就業規則も右従業員区分の改訂に併せて改訂し、職員には職員就業規則、営業職員には営業職員就業規則がそれぞれ適用されることとなった。

3 被告における給与体系

営業職員の給与は、営業職員給与規程に基づき算定・支給されるが、同規程で定める支給要件には、その細目が他の規程等で定められているものがある。

本給の金額は、給与規程で営業職員の資格ごとに定められているが、その資格は、営業職員個々に、一定期間内における活動実態と活動成果に基づき、資格・資格選考規程によりその都度決定される。成績手当・活動加算の金額は、営業職員が募集した生命保険契約を商品別・契約高別に評価算出した契約件数・契約高(支給成績という。)とのマトリックスにより資格別に定められているが、その評価算出の基準は販売取扱基準(契約可能範囲・年齢・最高最低保険金額・一時払保険料等の基準を定めたもの)並びに成績計上規程で定められている。

以上のように、営業職員の給与は、営業職員給与規程、資格・資格選考規程、販売取扱基準、成績計上規程により、計算・支給されることから、被告はこれらを一体とし、「営業職員給与体系」として取り扱っている。

三  昭和六二年労働協約の解約及び昭和六三年就業規則・平成元年就業規則の制定・実施(争いのない事実、<証拠略>及び弁論の全趣旨)

被告・原告組合間においては、昭和六二年四月から同年七月ころにかけて、原告組合に所属する営業職員の給与に関する労働協約の付属協定等(以下一括して「昭和六二年労働協約」という。)が締結されており、その詳細は別紙労働協約目録記載のとおりである。 なお、昭和六二年労働協約には期限の定めがない。

ところが、被告は原告組合に対し、昭和六二年一〇月一六日、「新・営業職員制度」を提案し、昭和六三年四月一日付け文書により、昭和六二年労働協約を昭和六三年七月五日付けをもって解約する旨通告するとともに、昭和六三年四月一日付けで、就業規則を営業職員給与規程等(以下一括して「昭和六三年就業規則」という。)に変更した(以下、右労働協約の解約及び就業規則の変更を併せて「本件就業規則の変更等」という。)。原告組合は右営業職員給与規程等の改訂に反対した。

なお、被告は、平成元年四月一日付けで営業職員給与規程等をさらに改訂したが(以下一括して「平成元年就業規則」という。)、その後、原告組合と被告との間で、平成二年六月二六日、原告組合に所属する営業職員の給与に関する労働協約の付属協定等(以下一括して「平成二年労働協約」という。)が締結された。

四  昭和五九年労働協約の存在(争いのない事実、<証拠略>、弁論の全趣旨)

被告と安田生命営業管理職員労働組合(原告組合の旧名称<証拠略>)とは、昭和五九年一〇月一日、左記の内容の労働協約(以下「昭和五九年労働協約」という。)を締結した。

第三章労働条件

(労働条件)

一四条一項

この協約において労働条件とは次の各号の一に該当する事項をいう。

六号 給与・退職手当の基準に関する事項

同条二項 前項の労働条件については付属協定として定める。

(労働条件に関する協議)

一五条一項

前条の労働条件を変更する場合は、あらかじめ会社組合協議の上行う。(以下本条項を「本件協議約款」という。)

同条二項

就業規則その他諸規程において組合員の労働条件に関して規定する場合は、本協約および法令に抵触する条項は設けない。

第五章経営協議会

(経営協議会の設置)

二〇条

会社と組合は、本協約の目的を達するために本章に定めるところより「経営協議会」を設置する。

(付議事項)

二一条

経営協議会への付議事項は、次のとおりとする。

1  協議事項

協議事項とは、会社・組合双方が合意した上で実施すべき事項で次のとおりとする。

イ 労働協約および同付則に関する事項

ロ 労働協約に協議すると定めた事項あるいは別途協定すると定めた事項

ハ その他本協約の目的達成に必要と認めた事項

2  通知事項

通知事項とは、会社が組合に事前に通知しその意見を聴取・尊重して実施すべき事項で次のとおりとする。

イ 職制機構の制定改廃およびこれに関連する事項

ロ 保険の販売組織・販売種類に関する事項

ハ 労働環境に関する事項

ニ 福利厚生施設の設置運営に関する事項

ホ その他前各号に準ずる事項

3  説明・報告事項

説明・報告事項とは、会社が必要に応じて組合に説明・報告すべき事項で次のとおりとする。

イ 会社経営方針・経営目標および関連指標に関する事項

ロ 長期計画・年度計画およびこれに伴う諸計画に関する事項

ハ 業績概況に関する事項

ニ その他前各号に準じる事項

第一〇章効力

(有効期間)

五一条一項

本協約の有効期間は締結の日から一年間とし、期間満了二か月前までに会社又は組合のいずれか一方から廃棄又は改訂の申し出をしない場合は、更に一年間継続し以後これに準ずる。

同条二項

前項において、本協約の有効期間が満了するまでに新協約の締結ができない場合には、これによって協約は当然には失効しないが、以降は期限の定めのない協約となる。

なお、昭和六二年労働協約は、昭和五九年労働協約一四条二項に基づくものであった。

五 原告下畑の原告組合加入

原告下畑は、平成二年一〇月一七日、安田労組を脱退し原告組合に加入した。

原告下畑は、昭和六三年五月一日以降本件訴訟提起に至るまで、昭和六二年就業規則に異議を唱えることなく給与を受給している。

(争点)

一  新たに旧労働協約と同一事項についての労働協約を締結した場合の旧労働協約の効力如何。

原告らは、昭和六二年労働協約の適用につき確認を求めるが、原告組合と被告との間で、これらと規定内容を同じくする平成二年労働協約を締結した場合における、昭和六二年労働協約の効力如何。

二  本件就業規則の変更等の適否。

1 本件協議約款等の趣旨及びその効力如何。

本件協議約款は「労働条件を変更する場合は、あらかじめ会社組合協議の上行う。」とあるが、その趣旨及び効力如何。本件協議約款が存するにもかかわらず、被告が、一方的に、労働協約の解約及び就業規則の変更により、労働条件の変更を行った場合の効力如何。

2 被告による本件就業規則の変更等による給与体系の組み替えの当否及びこれの原告組合の組合員への拘束力の有無如何。

(一) 不利益の存在如何。

本件就業規則の変更等により、原告らに不利益が存するか否か。存するとしてその差額賃金額。

(二) 必要性の存在如何。

被告に本件就業規則の変更等を行う必要性が存したか否か。

(三) 合理性の存在如何。

本件就業規則の変更等につき合理性が存するか否か。

三  被告と安田労組間の労働協約が、かつて安田労組の組合員であり、これを脱退して原告組合に加入した原告下畑に対し効力が及ぶか否か。

(当事者の主張)

一  新たに旧労働協約と同一事項についての労働協約を締結した場合の旧労働協約の効力如何。

1 被告

原告組合は、平成二年度の営業職員給与改訂に際して被告と協議し、平成二年六月二九日、合意妥結し被告と労働協約付属協定(以下「平成二年協約」という。)を締結したのであるから、給与改訂の連続性(平成二年度の営業職員給与改訂は少なくとも平成元年就業規則を前提とし、平成元年度の営業職員給与改訂は当然に昭和六三年就業規則を前提としている。)から、原告組合は、同組合員に対する原告らのいう昭和六三年就業規則及び平成元年就業規則の適用を遡って追認したというべきである。

2 原告ら

被告は、平成元年以降の春闘の経緯等について縷々述べるが、本件の対象となる昭和六三年及び平成元年就業規則の営業職員の「給与の基準に関する事項」につき、被告・原告組合間で協議が整い、合意がなされ、付属協定が締結された事実がない以上、これらの経緯は昭和六三年就業規則の法的拘束力の判断にあたっては無関係な事実であり、その内容が右判断に消長を来すことはない。

二  本件協議約款等の趣旨及びその効力如何

1 原告ら

本件協議約款は、文字通り、給与体系の変更は原告組合の同意がない限りできないことを明確に定めている。被告としては、基本協約自体を破棄するなど、協議約款を免れる方策をとりえたにもかかわらず何らの手続もとっていない。したがって、給与の基準に関する事項について新たな合意が形成されるまで、原告組合員の給与体系は昭和六二年に付属協定として締結された内容によることとなる。

被告は、原告組合の対応をもって同意権の濫用であると主張する。しかし、給与体系の大幅組み替えであり、かつ、その狙いが営業職員の販売行動に強い規制力を働かせることにあったにもかかわらず、そもそも五か月弱の協議期間しか予定せず、譲歩の意思を有さず被告提案をごり押ししたのは被告であり、同意権の濫用と指弾されるいわれは全くない。

また、被告は黙示の同意、追認を主張している。しかし、労働組合は就業規則の改訂に対し意見を述べる資格があり、右改訂は団交事項であるが、原告組合は明快に反対の意見を述べ、その撤回を要求している。労働者個人との黙示の合意による給与の改訂との主張と善解するとしても、労働協約で定めた内容と異なる個別合意は規範的効力に反して無効であり、また、個別的合意の内容(昭和六三年就業規則)は労働協約の内容(昭和六二年労働協約)よりも不利益な内容であるから労働者の同意は問題とならないし、そもそも就業規則は労働者に対する拘束力の有無が問題なのであって、この点からも労働者の同意は問題とならない。

2 被告

(一) 昭和六三年度の営業職員給与体系改訂交渉が原告組合との間で合意に達しなかったのは、原告組合が被告提案に対して、ただ反対を繰り返すばかりであったために、実質的な審議に入ることができずに日時を徒過するばかりであったからであり、原告組合のこのような態度は、昭和五九年労働協約に定める「同意」権の濫用にあたるのであって、昭和五九年統一協約違反などと指摘されるいわれはいささかもない。

(二) また、昭和六三年就業規則付属規程を適用するに際しては、被告は原告組合及び原告各人に対し、右規程を適用する旨通知し、原告らの黙示の同意を得ている。

(三) さらに、平成二年度及び平成三年度の営業職員の給与改訂に際しては、被告と原告組合との間において、いずれも前年度の給与体系を前提とした給与改訂に関する労働協約付属協定を締結しており、結局、原告組合は昭和六三年就業規則付属規程を所与のものとして、その後の給与改訂に合意しこれを追認している。

三  本件就業規則の変更等の当否及び原告組合の組合員への拘束力の有無如何

1 不利益の存在如何

(一) 原告ら

(1) 原告ら組合員の不利益(新規程による減額)

原告ら組合員の成績(販売・集金等の実績)を昭和六二年労働協約にあてはめ、各賃金費目ごとに賃金額を算出し、これを現実に支給された賃金と対比したのが、別表<略>営業職員給与新旧比較表(以下「別表新旧比較表」という。)のとおりであり、同表のとおりの不利益を被っている。

別表新旧比較表の算定方法は以下のとおりである。

ア 本給

実支給額で比較した。

イ 集金経費

集金経費については、昭和六三年就業規則によっても、昭和六三年五月までの契約に関しては昭和六二年労働協約どおりに実収保険料の三パーセントが支給されるため、差が生じるのは昭和六三年六月以降の新募集契約に限られる。昭和六三年就業規則によれば一件につき二〇〇円又は一二〇円である。そこで、別表新旧比較表では、差の生じない昭和六三年五月までの契約に関する集金経費については「継続手当他」の費目に全額参(ママ)入し、同年六月以降の新契約に限り、一件二〇〇円で(一部請求として)集金経費を算出した。

なお、別表新旧比較表は対象となる契約が全て月払いで毎月集金されたものとして計算した。すなわち、実際には例えば一年分が契約時に前納されたものも毎月集金したものとして計算した。

契約時(一回目)の集金は集金手数料の対象とはならないので、二回目以降の集金に対し、翌月払いであるので三か月目以降に集金手数料として支払われる。別表新旧比較表の新契約分は全てエリア内として一件二〇〇円で計算し、実支給額はエリア内とエリア外を実績に基づいて区別し計算した。

ウ 預振変更手数料

集金経費と同様、昭和六三年六月までの契約に関しては昭和六二年労働協約どおりに年間実収保険料の一パーセントが支給され、昭和六三年七月以降の新契約に限って差が生じる(昭和六三年就業規則では一件につき二〇〇円)。

そこで、別表新旧比較表では、差の生じない昭和六三年六月までの契約に関する預振変更手数料については「継続手当他」の費目に全額参(ママ)入した。

エ 継続手当

昭和六三年就業規則は昭和六二年労働協約を上回るものではなく、新旧差(差額)が生じるが、差を正確に算定するには過去五年分の資料が必要で複雑困難である。そこで、別表新旧比較表では、継続手当全額を「継続手当他」の費目に算出(ママ)した。

オ 通勤交通費

通勤交通費、その他支給額、欠勤控除は新旧差がないので、比較しない。そこで、別表新旧比較表では、これら諸費目を一括して「継続手当他」の各費目に参(ママ)入した。

その余の費目は、全て実支給額である。

(2) 制度

ア 昭和六二年協約と昭和六三年就業規則・平成元年就業規則の給与費目とその支給基準は別表<略>賃金費目及び支給基準対比表のとおりである。昭和六三年就業規則は全体として給与が減額されているのに加え、担当エリアへの集約によって保全手続事務が増大しているにもかかわらず、右事務に対応する給与が減額・無給化されているのに対し、何らの見返りもない。

イ 昭和六三年就業規則及び平成元年就業規則に基づく給与体系の改悪の主要な一つとして集金関係給与の改悪がある。その主要な内容は、集金手数料(集金経費)について実収保険料を基準に一定割合(三パーセント)で支給していた(通称・P建三パーセント)が、保険料にかかわらず集金件数を基準に定額(エリア内二〇〇円、エリア外一二〇円)で支給する方式(通称・件数建定額)に変更(昭和六三年就業規則による。)、予振変更手数料として年間実収保険料の一パーセントを支給していたがこれを廃止(但し、経過措置がある。平成元年就業規則による。)である。ところで、集金手数料のP建から件数建への変更については、既に昭和五八年九月、被告が集金関係給与規程の改定案を関係組合に提案したが、関係組合から集金給与水準の引下げとなる件数建には一切応じられないとして返上されてしまった。さらに、SSエリア制度の導入にあたり、被告は、昭和五九年一〇月、再度件数建への変更を提案したが、関係組合から強硬な反対を受け、昭和六一年一月、撤回を余儀なくされた。すなわち、右撤回がなければSSエリア制度の導入は頓挫したであろう。

以上の経過から明らかなとおり、件数建への変更は、集金給与水準の引下げ、すなわち、給与規程の不利益な変更であることは明白である。

(二) 被告

(1) 原告らの不利益(新規程による減額)

別表新旧比較表の内容については争う。

営業職員の給与は、営業職員給与規程、資格・資格選考規程、新契約取扱基準、成績計上規程等により計算支給されるのであるから、昭和六三年度給与体系の改訂前後の比較において、例えば、昭和六三年四月以降発売した新商品の取扱基準・成績計上基準は、右改訂前の規程・基準には当然含まれていないのであるから、原告主張の昭和六二年労働協約の内容に基づいて評価することができない。また、新契約取扱基準において、昭和六三年四月以降、同基準を緩和したことにより取扱可能となった契約も同様に評価することができない。したがって、給与計算の前提条件が異なるのに比較対照すること自体、全く無意味である。

また、仮に、計算すること自体は可能としても、給与大系の改訂によって、営業職員個々の活動内容自体が規制される可能性があるのであるから、改定後の営業活動の成果について、昭和六二年労働協約に基づき計算した得べかりし賃金額と実際に支給された賃金額とを比較することは全く無意味である。

なお、原告佐分利よし子(以下「原告佐分利」という。)につき、原告ら主張の算出に基づいて被告が検証した結果は別表(略)被告による営業職員給与新旧比較表のとおりであり、原告主張の数値と相違し差額累計においても四二万二六五二円相違する。但し、原告佐分利よし子が対象期間中に受理した契約中には、旧規程下においては発売していなかった商品や取り扱えなかった商品が四件含まれており、これらは賃金計算の基礎から除外している。また、給与費目のうちの集金手数料、預振変更手数料、継続手当他については旧規程での算出が煩雑であるうえ相違が生ずるとしても、少額と判断されるので、検証せず、原告ら算定の金額によることとした。

(2) 制度

そもそも営業職員の給与は能率給であり、大別すると固定部分・比例部分・集金関係等その他からなっており、給与の大半を占める固定部分・比例部分は新契約の成約結果によって支給される。したがって、営業職員の給与水準は固定部分・比例部分・集金関係給与等その他を総合して全体として評価すべきである。原告のいう昭和六三年就業規則及び平成元年就業規則による集金関係給与の改訂は、体系全体の改訂の中で実施されたのであり、単に集金関係給与のみをとらえて不利益を云々することが失当であることは明白である。

なお、昭和五八年九月の集金関係給与の改訂提案は集金関係給与の全大系の改訂を提案したのであり、単に原告のいう件数建への改訂のみを提案したのではない。また、被告が昭和五九年一〇月に集金関係給与改定案を原告組合に提示したことはない。

2 必要性の存在如何

(一) 被告

被告は、昭和五〇年、営業職員の標準活動の制度化(保険獲得件数を中心とする資格選考基準を軸にすえた営業職員の給与体系への改訂)を実施した。

その後一三年を経過し、この間、生保企業をめぐる経営環境が大きく変化する中で、被告は部分的な対応を図ってきたものの、契約獲得件数建の資格選考・商品別成績計上率と会社収益への貢献度との不均衡をはじめとする右給与体系自体の問題点も露呈しつつあり、時代に即応した新たな給与体系の構築が急務となった。

販売環境面では、生命保険の主力商品である大形保障性商品が市場で一巡する一方、急速に進む高齢化や金利選考の高まりにより、従来、付随的な位置付けにあった貯蓄・年金等の貯蓄性商品や医療保障商品等に対する社会の需要(ニーズ)が著しく増大してきた。右需要に応えるべく、生保各社とも新商品を開発する等積極的に対応し、ちなみに被告においても、昭和五四年度一四・六パーセントであった貯蓄性商品の占率が昭和六二年度には三〇・七パーセントに増大した。

しかしながら、貯蓄性商品は従来付随的に位置付けられていた上、同商品の性格上、利回りを比較的に高水準に設定していたので、被告の収益への貢献度は、保障性商品に比して相対的にも低位であり、貯蓄性商品占率増嵩はそのまま放置すれば被告の収益にも大きな影響を及ぼしかねないことから、喫緊の対応を要する経営課題となるに至った。

また、販売・サービス体制面においては、生命保険に対する社会的関心の高まり、保険商品の多様化、銀行・証券等の金融商品との競合等から、時代に即応した幅広い知識や豊富な情報の提供がなお一層求められることとなった。

そこで、顧客との接点である営業職員(いわゆるセールスマン)の資質向上が急務となり、右営業職員に対する教育訓練体制の見直しを始めとし、資格・給与等の処遇を高資質な営業職員にふさわしいものとしなければならなくなった。

さらに、キャッシュ・レス時代を反映して、保険料の銀行口座振替による払込み(以下「銀行振替扱い」という。)が増嵩する中で、保険審議会の答申を受けて生命保険業界は昭和六二年四月からバンク特約(保険料の支払方法が銀行振替扱いの場合は、保険料が集金の場合より安くなる。)を実施したことから、銀行振替取扱いの契約が急増するに至った。

しかして、右銀行振替扱いの契約が急増したことにより、営業職員のうち、従来から主として一般家庭を中心として保険料の集金を行いながら、契約の増額・増口・転換・紹介等により募集(販売)を行っている者について、募集活動面及び給与(なかでも集金関係の部分)面で適切な対応が必要となった。

(二) 原告ら

生命保険会社の経営に関する最も基本的な指標は、新契約及び保有契約の件数及び契約高(事業S)と収入保険料、そして総資産である。ところが、被告は基本指標の極く一部を提示し、この極く一部にのみに基づいて就業規則の変更等の必要性を説明しているにすぎない。これは給与体系組み替えの必要性につき重大な疑義を生じさせる。契約の件数と契約額はいわば車の両輪であるにもかかわらず、被告は新契約の件数のみに基づいて必要性を説明しただけであり、新契約の契約額、保有契約の件数と契約額は全く開示していない。しかも、保障性商品の件数については昭和五九年以前、貯蓄性商品の件数については昭和六一年の数字すら示していない。

さらに、保障性商品の占率についていえば、被告開示資料によってすら、一時払養老保険の爆発的ブーム(占率一五パーセント以上)が去ることによって、平成元年には五〇パーセント台を回復している。

また、被告の経営状況は極めて好調であり、給与体系組み替えを、協議約款を無視してまで一方的に強行しなければならないほどの状況にはなかった。経常利益の七五パーセントを占める保険料収入は二〇パーセント以上伸びているのに対し、その約六〇パーセントを人件費が占める事業費はわずか七パーセントしか伸びていない。

3 合理性の存在如何

(一) 被告

(1) 改定の内容

生保業界をめぐる経営環境の変化及び被告の置かれている状況から、改訂の目指すべき方向が市場競争力を備えた強靱な営業体制、総合的な生活保障・金融サービスを提供することのできる体制づくりにあったことは言うまでもない。そのためには、高資質・高能率営業職員の充実及び低収益商品の取り込みを可能とする収益構造の転換が不可欠である。この観点から、保障性商品の販売占率を引き上げることにより、営業職員の販売効率の向上を図る中で、増嵩する貯蓄性商品を受け入れ、さらには営業職員の月例給与の安定化を図るため、給与の構成を組み替えて固定的給与の大幅引き上げを行うことを柱として、給与体系全般にわたる改訂を実施した。

ア 販売取扱基準の改訂

営業職員の販売効率向上策の一環として、新契約取扱基準について従来同業他社に比べて著しく見劣りしていた最低保険金額を一部引き上げた(例えば「パワー」については一五〇〇万円から二〇〇〇万円に引き上げた。)。一方、転換契約取扱基準については、転換条件を一部緩和する等(新旧保険金額の差額条件の緩和)、契約転換の範囲拡大による効率向上と顧客防衛を図った。

イ 成績計上取扱基準の改訂

<1> 新契約の成績計上の基準について、従来の収益貢献度と成績評価の不均衡とを是正するため、保障性商品の成績評価を引き上げるとともに、貯蓄性商品の成績評価を相対的に引き下げた。その結果、商品別成績計上のバランスは業界他社と相応の水準となった。また、一件当たりの保険金額向上策の一環として、保障性商品に件数加算を行い、反面、契約純増評価を一層高めて純増貢献度に対する公平性を期すために、早期失効解約について件数控除を新設した。

<2> 原告らは、給与体系改訂における早期失効・解約に関する件数控除の導入により、「ノルマがきつくなると言える。」と供述しているが、件数控除を導入したのは、契約純増貢献度に対する評価の公平性を期すための合理的な措置であり、改悪などというものではない。仮に、支給成績基準や件数控除の導入が旧取扱に比べて営業職員の資格選考を厳しくする結果になるとしても、被告は一方で転換取扱基準について転換条件を緩和し、成績取扱基準については保障性商品に件数加算を行う等の措置を講じている。さらに、被告は資格選考成績基準に関する移行取扱、件数控除についても適用時期を昭和六四年四月募集分からとする等の経過措置を講じている。

ウ 資格選考基準の改訂

<1> 営業職員の高資質・高能率化を促進するため、効率の高い営業活動に対する評価を更に引き上げるべく従来より一段階上の最上級資格を新設した。また、従来は、主として新契約販売件数で資格選考における成果基準が達成できたため、結果として営業職員の販売効率ひいてはその収入面においてもマイナスを生じかねないことから、成果基準に支給成績基準(商品別・保険金額別に収益貢献度を加味して評価算出した指標に契約個々の継続状況を勘案したもの)を加えた。

<2> 原告らは、従来、一定の件数さえ処理していれば資格が維持できたのに、改訂給与体系では件数プラス支給成績両方の基準をクリアしないと資格が維持できないと主張するが、従来から、資格の任用・維持にあたっては、原則として資格・資格選考規程に定める活動標準の各項目の基準の達成が条件となっているのであって、一定の件数の達成だけが条件となっていたということは全くない。例えば、専業資格の場合、その活動標準として勤務状況、活動成果、研修の三項目について基準を達成しなければならず、そのうち、活動性基準としては前一か年の通算支給成績が一億九二〇〇万円以上、毎月の取扱件数が三件以上、月払第六月合算継続率が八五パーセント以上であることが明定されていた。改訂給与体系において支給成績基準を全資格に導入したのは一件あたりの保険金額の低い貯蓄性商品の販売占率が高まり、件数建の成果基準では資格・資格選考基準として適切でなくなったからであって、改悪などというものではない。現に、原告申請証人も、被告代理人の右趣旨の質問に対し、「そういう面もあると思う。」と答えているし、原告組合自身も「支給成績基準の導入は本給積み増しの観点からコスト面でやむを得ないと思われる。」と評している。

エ 給与支給基準の改訂

<1> 営業職員の高資質・高能率化への集金扱契約の減少・銀行振替扱契約の急増に対処するために、固定的給与、比例的給与、集金関係給与を組み替えて本給を大幅に積増して(例えば専業スーパー資格では八万五〇〇〇円から一五万円に引き上げた。)、固定的給与の占率を引き上げることにより、給与の安定化を図った。また、比例的給与(成績手当、販売手当)についても保険商品別収益貢献度を反映させ、保障性商品に対する手当を積増し、あわせて直前四か月月平均保障性商品の件数ランクに応じて、同一直前四か月月平均支給成績のランク内で支給額を逓増させることにより保障性商品に対する手当の積み増しを行った。

<2> 営業職員の給与は能率給であり、固定的給与、比例的給与及び集金関係給与等で構成され、給与の大半を占める固定的給与、比例的給与は新契約業績により算出される。したがって、営業職員の給与水準は、右に述べた固定的給与、比例的給与及び集金関係給与等を総合して全体として評価すべきである。

昭和六三年度就業規則付属規程による集金関係給与の改訂は、給与体系全体の改訂の中で実施されたのであり、単に集金関係給与だけを改訂したのではないから、集金関係給与のみを取り上げて不利益を云々することが失当であることは明白である。

ところで、営業職員の担当契約にかかわる保全業務は、エリア内外を問わず専業職員としての本来業務であり、しかも担当エリア内契約についての保全業務に対しては、本給及びエリア開拓手当が支給されているのであるから、無給化などというものでは全くない。

なお、集金関係給与について、被告は、

・集金経費については、昭和六二年度以前募集分、すなわち、規程改定以前の募集契約については従来通り支給する。

・銀行口座振替変更手数料の廃止に対応し、銀振化促進経費助成を一年間設ける。

・調整手当支給対象者であったSSタイプについては、支給対象契約であった管理扱契約について引き続き調整手当を支給する。

・エリア管理手当の廃止に伴い、五年間の保障措置を設ける。

等の経過取扱を行った。

(2) 改訂の効果

昭和五六年ないし昭和六〇年当時の一時払養老保険をめぐる成績計上の取扱と販売実績との関連が示すとおり、給与体系は営業戦略に基づく業務推進を方向付ける主要な柱である。これを踏まえ、被告は、昭和六三年度営業職員給与体系改訂により、営業職員の販売行動に強い規制力が働き保障性商品の販売占率が拡大すること等により、販売効率も専業以上の資格で修正成績が約一・七パーセント伸展するものと予測した(昭和六三年度予算計画専業以上一人あたり修正成績を昭和六二年度推定専業以上一人あたり修正成績で除したもの)。そこで、修正成績の伸展と給与の伸展はほぼパラレルであることから、営業職員の給与も、同様に一・七パーセント程度伸展するものと想定した。

事実としても、規程改訂の結果、それまで低下傾向にあった保障商(ママ)品の販売占率は、昭和六二年度は四六パーセントに対し、昭和六三年度は四九・八パーセント、平成元年度は五一・九パーセント、平成二年度は五八パーセントと拡大に転じ、一方、貯蓄性商品は昭和六三年度の税制改革と重なり、昭和六三年度は一九パーセント、平成元年度は一四・三パーセント、平成二年度は九・八パーセントとその販売占率は徐々に低下した。

その結果、営業職員の販売効率は予測を上回って伸展し、その給与も昭和六三年度末現在、勤続二年以上の者を対象とする同一人ベースで昭和六三年度の年収と昭和六二年度の年収対比で約一〇パーセント伸展し(うちベースアップ等相当分は一・六パーセント)、七三・六パーセントの営業職員が増収となっているのであり、営業職員にとっても有利な規程改定であった。ちなみに、原告佐藤も規程改定後、課税対象給与は年々増加している。

(3) 労働組合との合意

被告は、営業職員の大多数(約一万六五〇〇名)を組合員とする安田労組に対し、昭和六二年一〇月一六日に提案し、協議を行った。また、原告組合については、本来営業職員は被告・原告組合間において原告組合の組合員範囲を定めた昭和四八年覚書、昭和五九年一〇月一日付け労働協約覚書により組合員の範囲外ではあるが、昭和六二年当時、原告組合が右取り決めに違背して安田労組の組合員である営業職員一〇数名を取り込み、組合員としていたので、安田労組と同様、昭和六二年一〇月一六日に提案して、協議を行った。ところで、安田労組は、「営業職員制度の抜本的見直し」を運動方針のひとつとして掲げ、常に被告との交渉の中で営業職員制度のあるべき姿を議論しつつ、制度改定の必要性を唱えてきたことから、被告提案に対して積極的に協議に応じた。改訂交渉においては、中央執行委員会、四役専門部長会議、ブロック別支部代表者会議等の各級・各層ごとの組織協議を経て、四次にわたる修正要求がなされ、被告としても修正回答に応ずる等、実のある協議が行われた結果、昭和六三年三月一六日、合意妥結し、労働協約付属協定を締結した。

以上のとおり、昭和六三年度営業職員給与体系の改訂は圧倒的多数組合である安田労組と合意妥結のうえ、実施されたものである。

(4) 原告組合との協議

被告は、原告らに昭和六三年就業規則を適用するにあたっては、原告組合及び組合員個々に対し、その旨通知し、異議申立てのないことを確認した。また、原告らに、平成元年就業規則を適用したのは、昭和六三年就業規則を前提とした平成元年営業職員給与改訂に関する被告・組合間の合意妥結に基づくものである。また、原告組合は、平成二年度の営業職員給与改訂に際して被告と協議し、平成二年六月二九日、合意妥結し被告と労働協約付属協定(以下「平成二年協約」という。)を締結したのであるから、給与改訂の連続性(平成二年度の営業職員給与改訂は少なくとも平成元年就業規則を前提とし、平成元年度の営業職員給与改訂は当然に昭和六三年就業規則を前提としている。)から、原告組合は、同組合員に対する原告らのいう昭和六三年就業規則及び平成元年就業規則の適用を遡って追認したというべきである。

(5) まとめ

昭和六三年度給与体系の改訂は社会の要請に応え、営業職員の資質向上のための条件整備の一環として実施したので、改訂にあたっては営業職員の大多数を組合員とする安田労組と合意し、また原告組合とも協議のうえ実施したものであり、かつ、改訂内容は営業職員にとっても有利なもので、仮にも改悪などというものではないうえ、改訂給与体系移行に際しては多くの移行措置をはじめ、給与について経過取扱を講じているのであるから、十分に合理性がある。

(二) 原告ら

(1) 全体としての賃金水準の低下

被告は、本件組み替えは、給与の一・七パーセントの増収を見込んだものであり、現実には二・四パーセントの増収となったとする。

しかし、右一・七パーセント、二・四パーセントについてはその算出方法は不明であり、根拠の数字は全く示されていないし、同一の修正Sの額での対比はそもそもしていない。逆に、修正S(その元は事業S)と給与の伸び方は傾向としては連動するにもかかわらず、保有契約額は二桁の伸び、収入保険料は二〇パーセント以上の伸び、事業費ですら七パーセントの伸びがあるのに給与は二・四パーセントしか伸びなかったのである。しかも、二・四パーセントとは昭和六三年春闘による賃上げ後の数字なのである。

(2) 高収入者ほど低下率が高い

被告提出の成績手当給与テーブル保障性商品件数ランク別延人員分布(<証拠略>)は約九五〇〇名を対象とするが、当時の営業職員数は一万六〇〇〇から一万七〇〇〇名であって六割弱をカバーするにすぎない。この部分的な資料によっても、昭和六二年度年収四〇〇万円未満の者三五五二名(構成比三七・三九パーセント)中、昭和六三年度昇給者は二八五一名であるから、四〇〇万円超の者五九四七名中昇給者は四一四〇名で約三分の一の者は、バブルの最中に、新契約額は三〇パーセント以上、収入保険料は二〇パーセント以上伸びているにもかかわらず、年収は低下したのである。これをさらに年収一二〇〇万円以上の者でみると、三八七名中昇給者は二三三名で四割もの者が年収の低下を来しているのである。昇給者占率が年収が高くなるほど低下していることからも明らかなように、本件組み替えは高年収者、成績の良い者ほど年収ダウンの結果をもたらすものだったのである。

(3) プロパーだけに利益

本件組み替えはプロパーとデビット共通の改訂である。一般的にプロパー(Sタイプ)は集金を担当せず、デビット(SSタイプ)は担当地区(エリア)の集金が重要な業務のひとつである。本件組み替えは集金給与の減額をひとつの主要な目的としたのであるが、元々集金を持たないプロパーにとってはこの点は全く無関係であり、逆に、給与全体(プロパー、デビット総合しての)における集金給与の構成比を減じ、これを固定給(本給)に組み入れたとすれば、プロパーは固定給アップの恩恵だけを受けるのである。しかし、本件原告らデビットにとっては固定給アップといっても、集金給与からの横滑りにすぎず、実質的には何のアップもない。

(4) 集金給与の大幅減額

本件組み替えにより、集金手数料(集金経費)は実収保険料の三パーセントから一件につき一二〇円(エリア外)又は二〇〇円(エリア内)と変更された。終身保険の一件当たり平均月額保険料は一万六九〇九円であるから、集金手数料は平均五〇七円であった。これに対し、保有契約の七割程度はエリア外であるから集金経費は一件平均一四四円と大幅にダウンした。そもそも集金手数料のP建(保険料基準)からN建(件数基準)への変更による減額はかねてから被告が提案していたのであるが、当時の月労の強力な反対で実現できなかったのであった。そして、バンク特約の普及により集金件数自体が大幅に減少していくことは明らかなのであるから、被告の収益上は、同意約款を無視してまで大幅な低下を強いて強行する必要性もなかった。

なお、昭和六三年度規程改訂給与前年比較(<証拠略>)によれば、集金手数料の低下額は特選で四〇七六円、一級で二八四六円と表示されているが、この平均値は集金を担当しないプロパーも含めた営業職員数で除したものであり、現実に影響を受ける集金担当のデビット職員だけで除せば二倍弱の金額となるはずである。

(5) 新たなハードルの設定

本件組み替えにより、資格の新設、資格基準に支給S基準の導入、件数控除の強化など新たなハードルが設定された。これらはいずれも給与低下の要因となるものである。現に、昭和六三年度規程改訂給与前年比較(<証拠略>)によっても奨励手当(成績手当)は、保障性商品件数が新たな基準として加えられたため、事実上廃止されたと同然の結果となっている。

(6) 原告組合との協議

ア 被告は大幅な給与体系の組み替えである、本件組み替えを三か月ほどでまとめ、昭和六二年一〇月一六日、原告組合に対し提案した。そして、提案からわずか五か月後の昭和六三年四月一日、「今日に至るも遺憾ながら貴組合の了承が得られないので」との理由で給与の基準に関する昭和六二年協定の破棄を通告したのである。

大幅な組み替えであるにもかかわらず、提案文書は抽象的な理由と個別の項目毎の改訂点を示すのみの極めて簡潔なものであり、改訂による全体像も、従来と同一の販売実績を挙げた場合の給与額の変動も全く示されず、比例給と集金給与が減額となることも示されていない。そもそも、昭和六二年協定水準との対比など社内の検討過程では全くなされていないのである。交渉過程では、被告は結論を押しつけるだけで何ら具体的かつ基本的な指標、数字すら示していないし、原告組合の質問にもまともな対応は全くしていない。これでは、そもそも誠実な交渉を行うために必要な情報すら隠していたと断ぜざるを得ないのである。被告は、初めから、原告組合を真摯に説得する意思すら持っていなかったのであろう。被告の不誠実は明白である。このような対応をしておきながら、同意約款があるにもかかわらず、「貴組合の了承が得られないので」との全く中身のない通知のみで給与体系の組み替えを強行したのである。被告のこのような対応の背景には、新旧比較不能論・無意味論があると思料されるが、労働条件の根幹である賃金の体系を根本的に変更するにあたり、比較不能として議論を封鎖してしまうこと自体、極めて不当、傲慢であるばかりか、このような主張を安易に認めれば、労働条件変更についての法的チェックが全くはずされてしまうこととなり、誠に不合理である。

イ また、被告は、昭和六三年就業規則の適用通告に対し明示の異議がなかったとか、平成元年以降の春闘の経緯等について縷々述べるが、本件の対象となる昭和六三年及び平成元年就業規則の営業職員の「給与の基準に関する事項」につき、被告・原告組合間で協議が整い、合意がなされ、付属協定が締結された事実がない以上、これらの経緯は昭和六三年就業規則の法的拘束力の判断にあたっては無関係な事実であり、その内容が右判断に消長を来すことはない。

ウ 被告が任意に本件協議約款を締結しているにもかかわらず、原告組合の反対を無視しても、被告が一方的に就業規則変更等の方法によれるとすれば、就業規則の不利益変更の際に通常言われる「高度の必要性」以上の、極めて高度の必要性が課されなければならない。右要件として考えられるのは、少なくとも、給与体系組み替えの極めて高度な必要性(経営基盤の根幹を揺るがすほどのもの)、組み替えられた給与体系の極めて高度な合理性、給与体系組み替えによる不利益を生じないか、不利益が生じるとしても極めてわずかで、かつ、他の措置により実質的に不利益がカバーされていること、原告組合に対する十二分な情報提供のうえで、説明説得を尽くしたこと、以上の要件が必要であるところ、本件においては、右要件をいずれも満たしていない。

(7) まとめ

以上のとおり、本件組み替えは、従来被告が奨励していた一時払養老保険(貯蓄性商品)を販売させないようにするために、その成績(支給S)を大きく下げ、かつ、保障性商品の件数基準を導入することによって終身保険を販売するように強引に販売戦略を変更したものであり、少なくとも、被告の経営状況からすれば、原告組合との同意約款を無視して、わずか半年で強行しなければならないような必要に差し迫られた変更ではなく、さらに言えば、見通しを誤った営業政策失敗のツケを給与体系の変更によって営業職員に転嫁しようとしたのである。

偶々バブル期で成績が上がったために、給与の低下となる者が過半数を超えるほど多くはなかったが、一部の層において重大な負の影響を与えたのである。すなわち、低収入者より高収入者、プロパーよりデビット、保障性商品販売者より貯蓄性商品販売者である。これら、より影響を受けた営業職員が旧来の被告の営業政策に忠実に成績をあげ、被告に貢献してきた者であることは極めて重大である。本件は角度を変えれば、デビットの成績優良者を犠牲としてプロパーの低収入者の増収を図ったのである。

四  原告下畑に対する労働協約の効力

1 被告

原告下畑が安田労組を脱退し原告組合に加入したのは、平成元年一〇月一七日であるところ、被告・原告組合間の営業職員給与の基準に関する昭和六三年四月一九日付け労働協約付属協定、平成元年三月二八日付け労働協約付属協定の成立時は、原告下畑は安田労組の組合員であるから、右各協定の効力が原告下畑に及ぶこと、さらに、右協定に基づき改訂施行された昭和六三年五月一日付け営業職員就業規則及び平成元年五月一日付け営業職員就業規則が適用されるのは明白である。

しかも、原告下畑は、右就業規則の適用について、昭和六三年五月一日以降本件訴訟提起に至るまで、何ら異議を唱えることなく給与を受給しているのであるから、原告下畑及び原告組合の訴えは理由がない。

2 原告下畑及び原告組合

争う。

第三争点に対する判断

一  昭和六三年就業規則制定・実施の背景事情

被告は、昭和五〇年五月ころ、営業職員の標準活動の制度化(保険獲得件数を中心とする資格選考基準を中心とした営業職員の給与体系への改訂)を実施した。しかしながら、その後の年月の経過とともに、次のとおり、経営環境に大きな変化が生じ、これに対応した営業戦略を展開するうえで、営業推進マメージメントの柱である給与体系の見直しが必須となった。

なお、被告が営業職員の給与体系改訂への取組を開始した昭和六二年前後には同業大手各社もそれぞれの給与体系について比較的大きな改訂を実施している。(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の第一回証言)

1  行政指導・スタンスの変化(<証拠略>、<人証略>の第一回証言)

昭和六〇年五月三〇日に出された保険審議会答申において、「経営の特色化、行政の弾力化」がうたわれ、従来の画一的な行政指導のスタンスの転換が提言された。生命保険業界においては、右答申を受けて、保険商品の自由化、配当の自由化が促進された。これにより、例えば、保険商品面では昭和六一年に変額保険が発売され、契約者に対する還元である配当については、従来、業界大手会社(日本生命、第一生命、住友生命、明治生命、朝日生命、安田生命、三井生命等)においては横並びであったものが、右答申以降は会社間に格差が生ずるようになったため、経営として効率化への取組が必須となった。

2  販売環境の変化(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の第一回証言)

生命保険の主力商品である大型保障性商品(死亡保障重視型商品で死亡保障倍率が一〇倍以上のもの)が市場で一巡する一方、急激に進む高齢化や低金利化に伴う金利選好の高まりにより、従来は付随的な位置づけにあった貯蓄・年金等の貯蓄性商品(生存保障重視型商品)や医療保障商品等に対する社会の需要が急激に増大した。被告においては、従来、保障性商品市場の成熟化の強い影響を受けて保障性商品の販売占率は、昭和六〇年度は五二・五パーセント、同六一年度は四九・五パーセント、同六二年度は四六・一パーセントと低下傾向にあり、その結果、業界大手七社(日本生命、第一生命、住友生命、明治生命、朝日生命、安田生命、三井生命)に占める保有契約占率も、同六〇年度は七・一五パーセント、同六一年度は六・八八パーセント、同六二年度は六・七二パーセントと年々低下した。一方、貯蓄性商品は、社会の需要を反映して、被告においても、同五四年の販売占率一〇・五パーセントから同六二年には二四・七パーセントに増加した。従来、被告においては、貯蓄性商品は付随的に位置付けられており、かつ商品の性格上利回りが比較的高水準に設定されているうえ、一件当たりの平均保険料においては、保障性商品の一万六九〇九円に対し一万四六四一円、一件当たりの平均保険金においては保障性商品の二二五七万円に対し三三五万円(いずれも昭和六二年当時)と大幅に下回った。このように、貯蓄性商品は、保障性商品に比べて収益率が低く、とりわけ被告の場合、貯蓄性商品の成績計上の水準が同業他社に比べて高めに設定されており、さらには営業職員の資格選考の規定面でも主として新契約販売件数で活動成果の基準を達成できる内容(件数建の資格選考基準)となっていたことから、貯蓄性商品の急激な増加は、収益性の高い保障性商品の占率低下と相俟って、営業職員の収入ひいては被告の収益に極めて大きな影響を及ぼし、配当や先行投資余力の確保の面で競争上不利に陥ることが予想され、重大な経営課題となっていた。

3  販売基盤の変化(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の第一回各証言)

保険料の銀行口座振替による払込み(以下「銀行振替扱い」という。)がキャッシュレス時代を反映して増加する中で、保険審議会答申を受けて、生命保険業界では昭和六二年四月からバンク特約(保険料の支払方法が銀行振替扱いの場合は集金扱いの場合より保険料を二パーセント割り引く制度)が実施されたことを契機に、集金扱いから銀行振替扱いへの取扱いに拍車がかかり、集金扱い契約が大幅に減少する反面、銀行振替扱い契約が急増するに至った。集金扱い契約の大幅な減少は、従来から一般家庭を中心として、保険料の集金を行いながら、契約の増額・増口・転換・紹介等により販売を行っている営業職員にとっては販売基盤が減少することとなるため、集金先への依存度をできる限り抑制して、販売活動の効率化を促進することが急務となっていた。このことは、集金を担当する営業職員にとってはバンク特約の実施により集金件数が減少して集金給与面で大きな減少を受けかねない要素となっていた。また、被告の場合、集金関係給与が同業大手各社に比べて極めてコスト高であったため、全体給与も高水準であるという事情があった。ちなみに、バンク特約実施後、平成四年四月までに集金扱契約は約四〇万件減少し、銀行振替扱契約は約一〇〇万件増えている。

4  営業職員の高資質・高能率化(<証拠略>、<人証略>の証言第一回証言)

生命保険に対する社会的関心の高まり、社会の需要に基づく保険商品の多様化(医療・介護等のニューリスク商品、金利感応型商品等)、さらには銀行・証券等の商品との競合が進む中で、販売サービス面でも時代に即応した幅広い知識や豊富な情報(金融商品・税務関連等)の提供を可能にする体制作りが急務となった。そこで、顧客との接点である営業職員のなお一層の資質の向上が求められることとなり、営業職員に対する教育訓練体制の見直しをはじめとして、資格・給与等の処遇を高資質・高能率営業職員に相応しいものにすることが不可欠となった。生命保険会社の労働組合の上部団体である全国生命保険労働組合連合会においても、営業職員について「トータル保障プランナー制度」を標榜しつつ、その実現に取り組んでいるところである。

二  昭和六三年就業規則制定内容(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の第一回証言、弁論の全趣旨)

被告は、社会の多様な需要に応え、かつ全体としての収益性は維持しつつ、商品別の収益貢献度を公平に反映させる観点から、資格・資格選考については、営業職員の保険契約獲得件数を中心とする資格選考基準に契約高(商品別・契約金額別に収益貢献度を加味し評価算出したもの。以下「支給成績」という。)を加え、成績計上の取扱い(支給成績算出の基礎となる基準)については、収益貢献度と評価との関連で、相対的に評価の高すぎた貯蓄性商品の評価の見直しを図るため、保障性商品の評価を引き上げるとともに、貯蓄性商品の評価を引き下げ、不均衡の是正を図り、給与の基準については、販売・サービス体制充実の一環から、営業職員の資質向上のための条件整備として、月例給与の安定化と、集金扱いの減少・銀行振替扱いの急増に対応すべく、成績比例給与と集金関係給与の一部を本給に組み入れ、固定給与部分の大幅積み増しを行うという改訂を実施した。

1  主要な改訂内容

主要な改訂内容は次のとおりである(<証拠略>)。

(一) 営業職員資格規程(個人職員)

(1) 良質新人の選別登録による基幹外務員育成率の向上を図るため、以下のとおり実施する。

<1> 登録試験合格点数の引上げ現行七五点を八〇点とする。

<2> 登録時期の変更

現行入社翌月一日を翌月八日ころとする。(研修カリキュラム及び登録日については別途所管課から通知する。)

ただし、当面は一部支社(育成率不良支社等)において先行実施することとし、順次拡大していくこととする。

<3> 実施時期

六三年四月入社(五月登録)者からとする。

(2) 最上級位資格の創設

高能率、高収入を目指す営業職員にとって昇格目標としてふさわしい最上級位の水準とするため、現行の「専業特別」の一ランク上位資格として、「専業スーパー特別(仮称)」を新設することとする。

(3) 専業二級から専業一級への早期昇格コースの新設

専業一級の任用基準を満たし、昇格意欲も高い者に対し、昇格の機会を増やすため早期昇格コース(六か月後昇格選考)を新設することとする。

(4) 新人の活動成果目標に三件(専業一級)育成思想の導入

専業一級育成を図るためには、新人期間中からの意識づけが肝要であることから、管理基準(実態選考時の成果水準判断の目処)に加え、指導基準(日常の指導目標)を新設する。

(5) 資格選考基準に支給S(修正S)基準の導入

貯蓄性商品の取込み対応を図るとともに、資格格付にふさわしい給与水準を確保するため資格選考基準に支給S(修正S)基準を導入し、現行の件数基準との両建とする。

<省略>

なお、専業補Ⅱ期以下の新人については、活動成果目標として修正S成績目標を設定し、昇格時のスムーズな移行を図ることとする。

支給S(修正S)基準額の水準については、最低限確保しておかなければならない保障性商品販売占率を勘案の上設定した。

(二) 成績計上規程

(1) 商品別成績計上率の改訂(修正S)

収益貢献度と評価とのアンバランスを解消するために相対的に評価の高い養老の計上見直しを図り、相対的に評価の低い「パワー」、「終身」等の計上を引き上げることとした。

税制改正の実施に伴い、買われる商品としての色彩がますます濃厚となる金利感応型商品について、労働評価の公平性の観点から見直すこととした。

(2) 早期失効、解約による件数控除の導入

純増評価を一層高め、純増貢献度に対する公平性を期すため早期失効、解約(成立後一年以内)の場合、件数控除を新たに設けることとした。(六四年四月募集分より)

(3) 「パワー」等保障性商品に件数加算の新設

一件Sの向上を図るため保障性商品について、件数加算を設けることとした。(現行大型加算は廃止)

未取引契約 二五〇〇万以上(+〇・三件)

三〇〇〇万以上(+〇・五件)

既取引契約 三五〇〇万以上(+〇・五件)

(三) 取扱基準、転換・乗換計上規程

(1) 転換条件の緩和

保有契約純増、顧客防衛強化のため、転換条件を一部緩和するとともに(差額死亡S条件一〇〇〇万)第二ラインを新設することとした。

またこの機会に条件の簡素化を図ることとした。

(2) 転換・乗換計上規程の改訂

現行規程においてみられる純増貢献度と評価のアンバランスを解消するため、転換・乗換計上規程を改訂することとした。

上記転換条件の緩和は乗換対応の解消を図るためのものでもあり、乗換計上規程についてはこの点もあわせ勘案の上改訂した。

(3) 新契約取扱基準の改訂

五九年度以降、陣拡の軌道乗せのため据え置いてきたが、一部商品について他社に比し大巾に水準の見劣りがみられるようになってきたことから、一件Sの向上を図るため改訂することとした。

(四) 給与規程(個人職員)

(1) 経常給については、現行の固定給与、比例給与、集金給与を組み替え、高能率、高資質化に対応するため、また現行集金給与の一部を組み入れることにより、本給を大巾に積み増しすることとした。

<1> 商品別収益力を反映させ、保障性商品に対する手当積み増しを図った。(成績手当、販売手当)

<2> 比例給与については、Sランク給与(成績手当)に大巾に積み増しし、より一層安定給化を図った。

<3> N比例給与(活動加算)については資格選考基準と連動させ、昇格意欲の一層の向上を図ることとした。

<4> 集金関係給与については、銀振扱主流化時代に対応しエリア開拓の意識を喚起し、その成果に応えるべく「エリア開拓手当」を新設する一方、集金手数料については、必要経費助成として件建の「集金経費」を支給することとした。

<5> 継続手当については、継続フォローへの寄与度の相違もあり、対象契約の顧客担当者であるか否かにより支給単価を変えることとした。

あわせて、年・半年扱と月払を同一支給単価にするとともに、エリア内団体開拓を推進すべく団体扱完収手当を新設することとした。

なお、給与体系の改訂に伴い、保障給対象給与については、本給、専門職員手当、成績手当、活動加算、成績手当加算、販売手当、エリア開拓手当、継続手当、団体扱完収手当とする。

集金経費のうち経過取扱による保障支給分については、その七〇パーセントを保障給対象給与に含めることとする。

また、欠勤控除については現行取扱に準じ

専業職員

実働日数二〇日以上の者

欠勤一日につき 本給及び専門職員手当の一パーセントとする。二〇日未満の者

本給及び専門職員手当の二パーセントとする。

新職員

実働日数二〇日以上の者

欠勤一日につき 本給の二パーセントとする。

二〇日未満の者

本給の四パーセントとする。

2  改訂内容の趣旨(<証拠略>、<人証略>の第一回証言)

(一) 販売取扱基準の改訂

営業職員の販売効率向上策の一環として、新契約取扱基準について従来同業他社に比べて著しく見劣りしていた最低保障金額を一部引き上げた(例えば「パワー」については一五〇〇万円から二〇〇〇万円に引き上げた。)。他方、転換契約取扱規準については、転換条件を一部緩和する等(新旧保険金額の差額条件の緩和)、契約転換の範囲拡大による効率向上と顧客防衛を図った。

(二) 成績計上取扱基準の改訂

新契約の成績計上の基準について、従来の収益貢献度と成績評価の不均衡を是正するため、保障性商品の成績評価を引き上げるとともに、貯蓄性商品の成績評価を相対的に下げた。その結果、商品別成績計上のバランスは業界他社と相応の水準となった。また、一件当たりの保険金額向上策の一環として、保障性商品に件数加算を行い、反面、契約純増評価を一層高めて純増貢献度に対する公平性を期するために、早期失効解約について件数控除を新設した。

(三) 資格選考基準の改訂

営業職員の高資質・高能率化を促進するため、効率の高い営業活動に対する評価を更に引き上げるため従来より一段階上の最上級資格を新設した。また、従来は、主として新契約販売件数で資格選考における成果基準が達成できたため、結果として営業職員の販売効率ひいてはその収入面においてもマイナスを生じかねないことから、成果基準に支給成績基準(商品別・保険金額別に収益貢献度を加味して評価算出した指標に契約個々の継続状況を勘案したもの)を加えた。

(四) 給与支給基準の改訂

営業職員の高資質・高能率化への集金扱契約の減少・銀行振替扱契約の急増に対処するために、固定的給与、比例的給与、集金関係給与を組み替えて本給を大幅に積増して(例えば、専業スーパー資格では八万五〇〇〇円から一五万円に引き上げた。)、固定的給与の占率を引き上げることにより、給与の安定化を図った。また、比例的給与(成績手当、販売手当)についても保険商品別収益貢献度を反映させ、保障性商品に対する手当を積増し、あわせて直前四か月月平均保障性商品の件数ランクに応じて、同一直前四か月月平均支給成績のランク内で支給額を逓増させることにより保障性商品に対する手当の積み増しを行った。

(五) 集金関係給与

被告は、

<1> 集金経費については、昭和六二年度以前募集分、すなわち、規程改定以前の募集契約については従来通り支給する。

<2> 銀行口座振替変更手数料の廃止に対応し、銀振化促進経費助成を一年間設ける。

<3> 調整手当支給対象者であったSSタイプについては、支給対象契約であった管理扱契約について引き続き調整手当を支給する。

<4> エリア管理手当の廃止に伴い、五年間の保障措置を設ける。

等の経過取扱を行った。

三  労働組合との協議の経緯等

1  被告の労働組合に対する昭和六三年就業規則案の提示(争いのない事実、<証拠略>)

被告は安田労組及び原告組合に対し、昭和六二年一〇月、経営環境のめまぐるしい変化に対応するため、市場競争力を備えた強靭な営業体勢、総合的な生活保障・金融サービスの提供をすることのできる体勢づくりが緊急の課題であるとし、このためには高資質・高能率営業職員の拡充とともに、低収益商品の取り組みを可能とする収益構造への転換が不可欠であるとの提案理由の下に、主要な改訂内容として前記二で認定したとほぼ同内容の案を提示した。

2  被告と安田労組との協議

(一) 協議の経緯(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の第一回証言並びに弁論の全趣旨)

被告は安田労組に対し、昭和六二年一〇月一六日、「新営業職員制度」を提案した。この提案を受けた安田労組は、同月一四日から同月一六日の中央執行委員会において、右提案内容を協議し、また、右提案をそのまま速報として、支部及び分会に送付した。

被告は、同年一一月一三日、経営協議会小委員会において、「新営業職員制度」につき追加提案(但し、組織担当者、法人営業職員、特別研修生に関するもの)を行い、安田労組は、同月一二日から一四日の中央執行委員会において、追加提案を含めた提案内容を審議し、被告に対し、検討にあたっての基本判断資料を要求することとした。

安田労組は、同年一二月から昭和六三年一月にかけて、中央執行委員会、四役専門部長会議、ブロック別支部代表者会議等を開催し、被告提案に対する安田労組の見解を取りまとめ、同月二二日の経営協議会において、被告に対し、「新営業職員制度」に関し、修正申入れを行い、さらに、同月二六日の経営協議会小委員会において、追加修正申入れを行った。

これに対し、被告は、同年二月四日、同委員会の席上、安田労組の修正申入れに対する第一次回答を行い、さらに、同月一六日、同委員会の席上、第二次回答を行った。

安田労組は、右回答について、中央執行委員会、ブロック別支部代表者会議で協議した結果、さらに、同月二三日、経営協議会において、被告の修正回答に対する安田労組の評価を伝えるとともに、<1>件数控除の緩和、<2>集金経費についての金額引き上げ、<3>組織長制度における下部組織業績評価の換算方法撤回について再申入れを行った。

被告は、右申入れに対し、同年三月四日、経営協議会において、第三次回答を行ったが、安田労組は、集金経費の引き上げを中心に再回答を要請し、被告はこれを容れ、同月七日、第四次回答を行った。

安田労組は、右回答を踏まえ、中央執行委員会、四役専門部会、臨時大会等を開催し、右提案の受入れを決定し、被告と安田労組とは、同月一六日、「新営業職員制度」について合意妥結し、同日付けの労働協約付属協定を締結し、さらに、被告と安田労組とは、引き続き同年度給与改訂交渉(春闘)を開始し、同年四月一九日、合意妥結し、同日付けをもって営業職員給与の基準・賞与の支給基準に関する労働協約付属協定を締結した。

以上の経緯を経て被告は、右付属協定の内容に従い就業規則(給与規程)を改訂し、同年五月一日付けをもって昭和六三年就業規則を施行した。

(二) 主な協議内容(<証拠略>、<人証略>の第二回証言)

安田労組は、被告提案を受け、教育体制の整備、資格名称の見直し、育成コースの創設とりやめ、資格S基準の一部見直し、早期失効等による件数控除の見直し、集金経費や継続手当の見直し等につき、被告に対し、前記のとおり、修正申入れ、再修正申入れ等を行った。被告は、これに対し、前記のとおり、修正回答等を行い、被告と安田労組は、前記のとおり、合意妥結に至った。

例えば、件数控除については、被告の当初の提案では、新契約成立後一二か月以内に失効・解約となったときは、原則として、控除通知を発行した翌月の成績(取扱件数)から既計上分の件数を全額控除するというものであった。これに対し、安田労組は、純増貢献度により労働評価の公平性については理解を示しつつも、早期失効等による件数控除の対象期間を四か月にするよう修正申し入れ、被告はこれを受け、成立後三か月以内の失効等の場合、既計上分の件数の一〇割を控除、成立後一二か月以内の失効等の場合、既計上分の件数五割控除という内容で、さらに、昭和六三年二月一六日、成立後三か月以内の失効等の場合、既計上分の件数の一〇割控除、成立後六か月以内の失効等の場合、既計上分の六割控除、成立後九か月以内の失効等の場合、既計上分の五割控除、成立後一二か月以内の失効等の場合、既計上分の三割控除、適用時期を昭和六四年四月度募集分よりとするという内容で、それぞれ修正提案を行ったが、安田労組はこれに合意せず、昭和六三年三月四日付けの提案(控除割合及び適用時期は同年二月一六日提案と同一ながら、資格選考への適用等については別異の取扱いをするというもの。)により、合意に達した。右内容は、概ね、被告と原告組合との間の昭和六二年労働協約中の「新契約成績計上規程」(<証拠略>)と同一内容である。

また、集金経費についても、被告の当初の提案では、初年度集金及び次年度以降のエリア内集金の場合、五〇件以下の件数部分では換算N一件につき一二〇円、五〇件超の換算N一件につき一〇〇円、次年度以降のエリア外集金の場合、換算N一件につき六〇円とし、昭和六二年度以前の募集分で引き続き集金担当の契約については別途経過取扱いを設ける、また、銀変更手数料については廃止し別途経過措置は設けるとしていた。これに対し、安田労組は、バンク特約の業界一斉実施により、集金給与の一部を誰でも安定的に確保できる本給へと組み替えることについては基本的には将来を展望した場合プラスであるとしつつも、初年度集金及び次年度以降のエリア内集金を換算N一件につき三〇〇円、次年度以降のエリア外集金を換算N一件につき一五〇円とするよう修正申し入れ、被告は、昭和六三年二月四日付け回答では、当初提案を維持したが、安田労組は納得せず、被告は、同年三月四日、初年度集金及び次年度以降のエリア内集金を換算N一件につき一六〇円、次年度以降のエリア外集金を換算N一件につき八〇円という内容の修正申し入れを行ったが、これにも安田労組は合意せず、被告の、同月七日付け修正申し入れ(初年度集金及び次年度以降のエリア内集金を換算N一件につき二〇〇円、次年度以降のエリア外集金を換算N一件につき一二〇円)により、ようやく合意妥結となった。

3  被告と原告組合との協議

(一) 協議の経緯(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の第二回の各証言並びに弁論の全趣旨)

被告は原告組合に対し、安田労組に提示したのと同じ日に「新営業職員制度」を提示した。これに対し、原告組合は、同年一二月一一日付けをもって「給与規定・業務運営・その他に関する要求書並びに質問事項」と題する書面(<証拠略>)を被告に交付した。この書面の概略は、現行集金手数料三パーセントを削減するような集金給与の切り下げを絶対に行わぬこと、昭和六二年一一月一三日付け被告提案の「人事制度の改訂について」につき、原告組合は検討中であるが、改定案の随所に労働強化、賃上げ抑制、定年制改悪が盛り込まれており、原告組合としては重大視せざるを得ず、被告は同制度を原告組合と協議が整わない間は実施してはならないことを要求するというものであった。

被告と原告組合とは、同年一二月一五日、経営協議会において協議し、この席上、原告組合は、被告提案に対し具体的な見解を示さず、集金手数料の三パーセントを改訂しないということが協議の前提であると主張し、その後も、被告と原告組合との間で、経営協議会(例えば、昭和六三年一月二六日)、経営協議会小委員会(同年三月二四日)や事務折衝(例えば、同年三月一八日、同月二九日、同年四月一九日、同月二八日)において、「新営業職員制度」について協議が行われ、また、被告から原告組合に対し、同年三月一五日、「『営業職員および組織長』に関する諸規程改訂の件」と題する書面により、安田労組との間で合意妥結に達した内容での修正提案が行われた。しかし、原告組合は、被告提案の右体系変更は賃金の抑制を企図したものであるとして専ら反対を主張するに終始したため、被告提案の中身の協議に入ることはできなかった。そして、原告組合は被告に対し、同月三一日、同日付け回答書(<証拠略>)を被告に交付した。

この内容の概略は、「営業職員資格選考規程改訂」については、

<1> 上級位資格としての専業スーパー特別の創設および専業二級から専業一級への早期昇格コースの新設については、より上級への昇格を図る道がひらけるものとして評価する、

<2> 現行取扱件数基準に加え、新たに支給S(修正S)成績基準を導入することは、本給積増しの観点からコストの面でやむを得ないことと思われるが、あたら下級へ降格する個人職員が続出することのないよう、現状をふまえ、常識的な基準として再考されたい。

「新契約成績計上、取扱基準の改訂」については、

<1> 新契約成績計上基準の改訂については、市場の変化に対応し、定期付商品の計上を引き上げ、貯蓄性商品の計上引き上(ママ)げはやむを得ない改訂と判断し承認する、

<2> 新契約取扱基準の改訂は、顧客拡大の観点からみれば、好ましいこととはいえないが、社会的な消費水準の変化に伴うものとして承認する、

<3> 転換取扱基準の改訂は基準の簡素化、引き下げがはかられており評価する、

<4> 転換、乗換成績計上基準の改訂は乗換基準に件数控除を導入することに関し、資格選考において支給S基準を導入することにより、二重の足かせとなって上級資格への昇格はおろか、降格者をだす原因とならぬよう配慮されたい。

「営業職員給与規程、賞与支給基準の改訂」については、

<1> 個人職員の本給を増額することは、専業職員にふさわしい、給与安定につながるものとして評価する、

<2> しかしながら新契約にかかわる給与に重点がおかれたとの感は免れず、集金、保全に関係する給与が大幅に削減される内容は極めて遺憾であり、承認出来ない。生保は長期の生活設計ニーズに応えるものであり、アフタケアがセールスに結びつく原点であると考える。また、セールスとサービスというSSエリア制度の趣旨からしてもセールスばかりに重点を置くかのような給与改訂はセールス活動の将来像に禍根を残すものとして強く反対し、保有契約純増の目的を達成するためにも次の点を要求する。

a 継続手当について現行規程により支給すること、

b 現行集金手数料三パーセントを引き続き支給すること、

c 自己受理の保有契約件数に基づく保全手当を新設すること、

d 集金扱いから銀振扱へ変更の場合、また新契約時銀振扱の場合、現行規程通り支給すること、というものであった。

右原告組合の回答に対し、被告は、新営業職員制度は全社的に統一実施すべき性格ものであり、従業員の九九パーセントで組織する安田労組とは合意妥結したが、原告組合は被告提案から約半年を経過するも終始反対を繰り返すばかりで、実質的協議が進まず、なお原告組合と協議を続けても合意妥結が見込めないと判断し、同年四月一日付けで、被告・原告組合間の営業職員の給与に関する労働協約付属協定(職員給与規程に関する協定、営業職員給与規程に関する協定、営業職員資格・資格選考規程に関する協定、営業職員資格・資格選考規程経過取扱に関する協定、継続手当支給細則に関する協定、集金関係給与細則に関する協定、新契約成績計上規程に関する協定、転換契約成績計上規程に関する協定、乗換契約取扱規程に関する協定、新・定期保険から集団定期保険への乗換契約取扱に関する協定、育成組織長・指導組織長規程に関する協定、組織主任規程に関する協定、組織主任補規程に関する協定)を九〇日以上の予告期間をおいた同年七月五日をもって破棄する旨の労働協約付属協定破棄通告の件と題する内容証明郵便(<証拠略>)を原告組合に送付した。

なお、被告は、その際、本件協議約款を含む昭和五九年労働協約の破棄をも検討したが、原告組合と安田労組との取扱いが異なると、組合間差別になりかねないとして、昭和五九年労働協約の破棄には至らなかった。

また、被告は原告組合に対し、昭和六三年四月二〇日付け「営業職員に関する諸規程改訂」修正要求に対する回答の件と題する書面(<証拠略>)を交付し、この書面の中で、「資格選考規程」については、S基準の適用に際してはスムーズな移行ができるよう準備対応期間を設けることとしていること、「成績計上基準・販売取扱基準」の「乗換成績計上基準」については、乗換契約の場合、新契約・転換契約との評価バランスを公平にするため、件数控除を導入することとし、また、乗換契約評価の改訂に際しては、一方で転換条件の大幅緩和を図ることにより、乗換対応の縮減に配慮していること、「給与規程」については、<1>高資質・高能率化をめざす新制度趣旨に鑑み安定高収入が確保できるよう、また、環境の変化に対応しうるよう体系の組替えをしており、従って、これまでも説明したとおり個々の費目を取り出して新・旧対比すれば増減が各々生じるが、給与として増収が図られるよう改訂したものであることを理解願いたい、<2>具体的には、今回の改訂で本給の大幅積増を図ることとしたが、これは商品の多様化、また顧客の生命保険に対する関心の高まりから、日常の営業活動のうち、保全サービスのウエイトが従来以上に増してきていることを配慮してのことでもあること、また、原告組合の指摘にもあるとおり、アフターサービスがあってこそ販売成果に結びつくものであること、すなわち、アフターサービスと販売は表裏一体の関係にあり、加えて営業職員は事業所得者であることから、販売と表裏一体の関係にあるサービスは投資といえるので、決してアフターサービスを軽んじるものではなく、サービス・販売を総合的に評価しているものである点の理解を願いたい、<3>また、バンク特約の実施を契機に顧客ニードから集金扱件数が激減しつつあり、従って、集金先過度依存の営業職員にとって給与の減収のみならず、販売基盤の先細りから現行のままでは販売活動面においても取り残されてしまう可能性が極めて大きいものといえるので、そこで、改訂にあたり、集金件数が減少しても現給与水準に過度な影響が生じないよう、また収入を保ちつつ活動内容の変革が図られるよう集金関係給与も含め、給与体系全体の見直しをしたものである、との回答をした。

右の間の同月一四日、原告組合は被告に対し、「昭和六三年度営業職員処遇改善要求書」と題する書面(<証拠略>)が(ママ)提示した。この書面で原告組合が被告に要求したのは、

<1> 本給、研修手当、活動手当の五パーセント増額を図ること、

<2> 奨励手当、成績手当は現行支給成績段階と支給額を維持すること、

<3> 集金手数料として実集金保険料の三パーセント支給を維持すること、

<4> 銀管理手当として実収保険料の一パーセントを支給すること、

<5> 継続手当支給基準を現行通り維持すること、

<6> V転と頭金制度の同時取り扱いを導入すること、

<7> 一年未満新人に限り、第二ライン契約の件数計上を一件とすること、

<8> 自転車等購入金額補助基準の緩和を図ること、

<9> 乗換規定における「新契約成績計上取消」を廃止すること、

<10> エリア外契約の保有制度を撤廃すること、

ということであった。

右要求に対し、被告は原告組合に、同年五月九日付け「昭和六三年度営業職員処遇改善要求に対する回答の件」と題する書面(<証拠略>)を交付した。この書面の中で、被告は、<1>営業職員の昭和六三年度給与改訂ならびに同年度賞与支給基準については、昨年度提案(個人職員については一〇月一六日、組織長制度については一一月一三日)以来、継続交渉中の新営業職員制度を早期妥結の上、ただちに給与改訂交渉に入りたいと考えているので、営業職員制度改定につき至急合意することを申し入れる、なお、原告組合との事務折衡時(三月一八日、三月二九日、四月一九日、四月二八日)において再三申したが、被告は、昭和六三年度給与改訂を新営業職員制度に基づき実施せざるを得ない実状にあることの理解を願いたい、また、営業職員の給与改訂については、妥結月の翌月から適用されることとなる、<2>その他の項目については、要望に添うことはできない、との回答をなした。

(二) その後の経緯

(1) 昭和六三年度営業職員賞与支給の経緯(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の証言)

被告においては、従来、給与改訂交渉と賞与交渉とは別個に行い、給与改訂交渉妥結後に賞与交渉を行ってきたが、賞与の支給基準は賞与支給対象給与をベースに(職員)、若しくは給与の取扱、すなわち給与体系をベースとして(営業職員)定められることから、昭和六〇年度から同時交渉に改め、毎春闘の中で給与改訂交渉と賞与交渉とを同時に行うこととしてきた。

そこで、原告組合は被告に対し、昭和六三年五月二〇日付け文書で「昭和六三年度臨時給与に関する要求」を申入れていたが、被告は、被告提示の支給基準で同年六月二八日に賞与(中元手当)を組合員に支給し、次いで、同年七月五日以降、昭和六三年度就業規則を適用し改訂給与を支給した。

なお、被告は原告組合の右要求に対し、同年五月二四日付け文書(<証拠略>)で、「昭和六三年度営業職員の賞与については、既に昭和六二年一〇月提案の新給与体系に基づく昭和六三年度給与改訂の中で支給基準を提案しているので、被告提案の内容で理解願いたい」旨回答し、さらに、同年六月一日付け文書(<証拠略>)で同年六月二日の就業時間内までに文書回答を求めるとともに、万一回答のない場合は、被告が提案した支給基準による賞与の支給を承諾されたものとして取り扱う旨を通知した。

しかし、被告の右通知に対し、原告組合からは何らの意思表示もなかったので、被告は原告組合が被告提案による賞与支給を承諾したものとし、原告組合の組合員である営業職員に対し、昭和六三年度賞与を支給した。右支給につき、原告組合からは全く異議が述べられなかった。

被告は、以上の経緯から、原告組合が同年度営業職員賞与について新給与体系に基づく改訂給与の取扱いを基礎に定めた支給基準による支給を少なくとも黙示的に了承しているものと判断し、月例給与についても、被告と原告組合間の営業職員の給与に関する労働協約付属協定が失効する同年七月五日以降、改訂就業規則(給与規程)の適用を了承するものと判断し、同年六月二五日付けの「改訂就業規則の適用について」と題する文書(<証拠略>)により、同年七月以降の営業職員の月例給与について改訂就業規則(付属規程)を適用し支払う旨通知した。被告は、この通知の中で、改訂就業規則付属規程の適用に伴う経過的取扱につき、<1>職員については、a七月度給与につき従業員の利益と公平性を勘案して七月一日から新給与規程で計算した金額を支給する、b新給与規程により算出した四月から六月の三か月分の差額につき、被告は前項と同様の観点から原告組合の組合員にも支給したいと考えているので、諾否を六月三〇日午後四時二〇分迄に文書にて回答されるよう申し入れ、この期日までに回答なき場合は、支給を承諾されたものとして取扱う旨通告し、<2>営業職員については、営業職員の給与体系の特殊性から一計算期間を分割的に取扱うことは不可能であり、制度適用の合理性・従業員の利益と公平性を勘案して、a新契約に関する諸取扱(販売条件・成績計上)は、七月募集開始(六月二六日)から新規程によることとする、b新資格選考規程に定める特選職員への任用は七月一斉選考とし、二級職員から一級職員への早期昇格選考は七月一日から実施する、c固定給、エリア開拓手当につき、七月二〇日支給時から、また、比例給、集金経費(集金関係給与)につき八月二〇日の支給時から、事実上の日割りをせず新給与規程で計算した金額を支給する、d新資格選考規程・新給与規程を適用する際、昭和六三年四ないし六月募集分の成績につき、新成績計上規程に基づき事実上の読み替えをする、読み替えの結果不利となる場合は、有利な方を適用する取扱いとすることを明記した。

しかし、原告組合は、被告の右通知に対しても何らの異議申立てもしなかったので、被告は、同年七月以降、原告組合の組合員である営業職員に対し、右就業規則(給与規程)を適用し給与を支給した。

なお、原告組合及び原告組合の組合員である営業職員から、右取扱いについて、昭和六三年七月以降本訴提起(平成元年一一月二九日)まで約一年五か月の間、被告に対し、何らの異議申立てもなかった。

(2) 平成元年度営業職員給与改訂・賞与支給基準交渉経緯(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の証言)

被告は、平成元年度営業職員給与改訂・賞与支給基準交渉につき、安田労組とは、平成元年三月二八日に合意妥結し、原告組合とは、同年三月二〇日に要求を受け、完全週休二日制の実施(始終業時刻・休日の改訂)と一体のものとして交渉した結果、同年四月二七日に開催した経営協議会において、原告組合執行委員長から「被告二次回答をもって完全週休二日制の実施と併せて収束する。」との意思表示を受けて終了した。

被告は、収束と意思表示のあった右給与改訂・賞与支給基準・完全週休二日制の実施について、これを合意妥結と理解し、右改訂に関する労働協約付属協定の調印に原告組合も応ずるものと考え、原告組合組合員に対し、平成元年五月一日から給与改訂と完全週休二日制を実施し、同年六月二八日には賞与(中元手当)を支給した。

ところが、原告組合は、付属協定の調印の段階に至って、収束したが合意妥結はしていないとして調印に応じなかったうえ、平成元年の給与改訂実施後七か月を経過した同年一一月二九日、本件訴訟を提起した。

(3) 平成二年度営業職員給与改訂・賞与支給基準交渉経緯(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の証言及び弁論の全趣旨)

平成二年度の営業職員給与改訂及び賞与支給基準の交渉は、安田労組とは、平成二年三月一九日の被告の二次回答をもって合意妥結し、同日付けで労働協約付属協定を締結した。

原告組合とは、同年三月二〇日に原告組合から「三月一九日付け会社修正回答(会社二次回答)をもって了解し収束する。」旨の通告があったので、被告は労働協約付属協定書を提示し調印を求めたところ、原告組合は「既に安田労組が妥結しているので改訂給与規程が適用されるのはやむを得ないが、妥結したのではないので調印できない。」として調印を拒否した。

しかし、右給与改訂・賞与支給基準の交渉は原告組合の要求を受けて交渉しており、被告は、原告組合が了解・収束した以上、労働協約一四条二項の定めに従って労働協約付属協定の調印に応ずるべきである旨判断し、原告組合に対し、同年四月三日付け文書により再度調印を申し入れ、次いで、同月九日付け文書による調印督促を始めとし再三にわたり調印を督促した。

しかし、原告組合は調印には応じようとしなかったので、被告は、同月一八日付け「労働協約付属協定調印の件」と題する書面(<証拠略>)により、平成二年度の給与改訂及び賞与支給は法理上からも、平成元年度の経緯からも附属協定の調印をまって実施せざるをえず、調印完了までの間は給与については現行どおり取り扱う旨、原告組合に通知した。

右通知に対し、原告組合は、同月二三日付け「被告の労働協約付属協定調印要求に対する組合回答の件」と題する書面(<証拠略>)により、右文書の撤回を申し入れた。

そこで、被告は原告組合に対し、同年四月二五日付け文書で撤回する理由はなく応じられない旨の回答と重ねて付属協定の調印を申し入れた。

その後も被告は再三調印を督促したが、原告組合は妥結していないとして調印に応じなかった。一方、原告組合は被告に対し、同年五月一一日付け文書で改訂給与及び賞与の支給を申し入れ、同月二四日付け文書で夏期賞与の支給意思の確認等求めた。これに対し、被告は、同月二八日付け文書により改訂給与及び賞与の支給は付属協定の調印をまって実施せざるをえない旨説明し、重ねて付属協定の調印を申し入れるとともに、夏期賞与支給の事務処理上、同月三一日までに付属協定の調印が完了した場合は、他の従業員と同じ同年六月二八日に夏期賞与を支給することができる旨回答した。

ところが、原告組合は、同年六月二八日夏期賞与の支給のための事務処理上の期限である同年五月三一日を経過しても付属協定の調印に応じなかったことから、被告は、同年六月一日付け文書で、同月二八日に夏期賞与を支給することは不可能となった旨、原告組合及び同組合員個々に通知した。

そこで、原告組合の組合員川崎靖夫ら五〇名は、同月五日、同松原英機ら四三名は、同月一三日に、それぞれ東京地方裁判所に夏期賞与仮払仮処分を申し立てた(平成二年(ヨ)第二二五〇号事件ほか)。

右事件に関し、同月二二日、第一回審尋期日が開かれ、その席上、被告は裁判所に「債権者ら(組合員ら)に賞与請求権は存しない。債権者らの所属する原告組合が給与改訂及び賞与支給基準に関する付属協定書に調印するか、あるいは債権者らが被告提示の給与改訂及び賞与支給基準の内容に同意するのでなければ債権者らに賞与を支給する理由がない。」旨述べ、一方、原告組合は「被告が本件訴訟事件の取下げを条件としないのであれば、付属協定書に調印する。」旨の申出があり、結局、付属協定書に調印のうえ、夏期賞与は支給されることになり、右仮処分申立はいずれも取り下げられた。

そこで、被告と原告組合とは、同月二六日付け労働協約付属協定協定(ママ)書(<証拠略>)に署名・押印した。

(4) 平成三年度営業職員給与改訂、賞与支給基準交渉経緯(争いのない事実、<証拠略>、<人証略>の証言)

被告は、平成三年度営業職員給与改訂、賞与支給基準についても、同年四月一五日、原告組合と合意妥結し、同日付けで労働協約付属協定を締結した。

ところが、原告組合は被告に対し、右労働協約締結後二五日を経過した同年五月一〇日に至り、九一年春闘収束にあたっての通知と題する書面(<証拠略>)により、右労働協約付属協定の締結をもって新営業職員制度及びこれに基づく賃金規程に同意するものではないと通知した。

これに対し、被告は原告に対し、同日、「平成三年五月一〇日付け『九一春闘収束にあたっての通知』と題する文書について」と題する書面(<証拠略>)を交付し、この書面の中で、原告組合の申出は甚だしく信義則に反するものであって到底容認できるものではないので、被告は本次改訂が新営業職員制度並びにそれに基づく平成二年度の賃金等に関する諸協定を前提としたものであり、四月四日付け被告の最終回答をもって四月一五日に合意妥結し、労働協約の定めに従い、同日付けで労働協約付属協定を締結したことを通知するとした。

四  本件就業規則の改訂等による影響(<証拠略>、<人証略>の第一回証言、原告佐藤法子の本人尋問の結果)

被告は、昭和六三年度営業職員給与体系改訂により、営業職員の販売行動に強い規制力が働き保障性商品の販売占率が拡大すること等により、販売効率も専業以上の資格で修正成績が約一・七パーセント伸展するものと予測し(昭和六三年度予算計画専業以上一人あたり修正成績を昭和六二年度推定専業以上一人あたり修正成績で除したもの)、また、修正成績の伸展と給与の伸展はほぼ同程度であることから、営業職員の給与も、同様に約一・七パーセント伸展するものと想定していた。

もっとも、実際には、昭和六三年就業規則の改訂等の結果、それまで低下傾向にあった保障商(ママ)品の販売占率は、同六二年度は四六パーセントに対し、同六三年度は四九・八パーセント、平成元年度は五一・九パーセント、同二年度は五八パーセントと拡大に転ずる一方、貯蓄性商品は昭和六三年度の税制改革と重なって、同年度は一九パーセント、平成元年度は一四・三パーセント、同二年度は九・八パーセントとその販売占率は徐々に低下した。この結果、営業職員の販売効率は予測を上回って伸展し、その給与も昭和六三年度末現在、勤続二年以上の者を対象とする同一人ベースで同年度の年収と同六二年度の年収対比で約一〇パーセント伸展し、七三・六パーセントの営業職員(各年収ランクごとにみると、年収ランクにおいてばらつきはあるものの六割弱から八割強)が増収となった。

なお、原告佐藤も昭和六三年度就業規則の改訂等の後、課税対象給与は年々増加している。

五  原告組合の原告組合員の賃金についての労働協約と同一内容の賃金支払義務の存在確認請求(請求の一)及び原告組合を除くその余の原告らの労働協約と同一内容の賃金支払義務の存在確認請求(請求の二)

原告組合の原告組合員の賃金についての労働協約と同一内容の賃金支払義務の存在確認請求及び原告組合を除くその余の原告らの労働協約と同一内容の賃金支払義務の存在確認請求は、現時点において、原告らに昭和六二年労働協約の適用があることを前提とした請求であるところ、前記認定のとおり、原告組合は、被告との間で、平成二年以降、労働協約営(ママ)業職員の給与等を定めた昭和六二年労働協約と抵触する労働協約を締結しているのであり、これらの協約締結によって、原告組合が遡って本件就業規則の変更等を追認しているとはいえないとしても、右労働協約上に特段の留保もなく昭和六二年労働協約の内容に抵触する新たな労働協約を締結している以上、昭和六二年労働協約は当然に終了したといえるから、被告による本件就業規則の変更等の効力の有無の点を判断するまでもなく、現時点において、原告らに、昭和六二年労働協約の効力を認める余地はない。

したがって、原告組合の原告組合員の賃金についての労働協約と同一内容の賃金支払義務の存在確認請求(請求の一)及び原告組合を除くその余の原告らの労働協約と同一内容の賃金支払義務の存在確認請求(請求の二)は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

六  本件就業規則の変更等の適否

1  不利益の存在如何

本件就業規則の変更等による不利益性について検討する。

原告らは、原告ら組合員の成績(販売・集金等の実績)を昭和六二年協定にあてはめ、各賃金費目ごとに賃金額を算出し、これを現実に支給された賃金と対比したのが、別表新旧比較表である旨主張するが、原告ら組合員の成績については、主張立証がないのであるから、原告ら主張の不利益性の点を認めることはできない。

もっとも、原告佐分利については、別表新旧比較表の限度で争いはないので、これについてみるに、同原告については、昭和六二年労働協約によって算出された賃金額より、昭和六三年就業規則及び平成元年就業規則により現実に支給された賃金額は少ないから、不利益が生じたといえる。

なお、原告らは、集金関係給与規程の改訂のみを捉えて、原告ら組合員に不利益が生じたとも主張しているようであるが、仮に現実の支給額が増加するような変更が行われていれば、労働強化が行われているなどの特段の事情のない限り、不利益が生じたものとはいえないのであるから、制度の改定のみを捉えて不利益性を主張する原告らの主張は理由がない。

2  必要性

そこで、本件就業規則の変更等の必要性について検討するに、この点については、前記のとおり、行政指導・スタンスの変化、販売環境の変化、販売基盤の変化及び営業職員の高資質・高能率化が存したのであるから、これらの諸点に鑑みれば、その必要性を肯認できる。

原告らは、新契約の契約額、保有契約の件数と契約額を問題としたり、あるいは、被告の経営状況は極めて好調であったので必要性は存しなかった旨主張するが、被告に変更の必要性が存したことは右に述べたとおりであり、負債超過等による経営危機を打開する等の事情により実施されたのではないから、被告の経営状況の好不調のみを理由とする原告らの右主張は理由がない。

なお、原告らは、保障性商品の占率につき、一時払養老保険の爆発的ブームが去ることによって、平成元年には五〇パーセント台を回復しているとして、本件就業規則の変更等が不要であったと主張するかのようであるが、平成元年は、まさに本件就業規則の変更等が行われた後のことであって、単なるブームが去ることにより占率が下がったとする原告らの主張を裏付けるに足る証拠はない。

3  合理性

さらに、本件就業規則の変更等の合理性について検討するに、前記のとおり、営業職員の給与は昭和六三年度末で、勤続二年以上の者を対象とする同一人ベースによると昭和六三年度の年収と昭和六二年度の年収対比で約一〇パーセント伸展し、七三・六パーセントの営業職員が増収となるなど、営業職員の賃金が全体として従前より減少しているとはいえず、また、労働条件が低下しているともいえないし、被告は、営業職員の大部分を組織する安田労組と協議・合意のうえ、前記のとおりの理由に基づき、営業職員の利益に配慮したのであるから、これらの事情に鑑みれば、本件就業規則の変更等については、その合理性を肯認することができる。

原告らは、全体としての賃金水準のダウンであり、高収入者ほどダウン率が高い旨主張するが、前記のとおり、営業職員の給与(昭和六三年度末現在、勤続二年以上の者を対象とする同一人ベース)は、昭和六三年度の年収と昭和六二年度の年収対比で約一〇パーセント伸展し、七三・六パーセントの営業職員が増収となっていること、高収入者についても、六割近くの者が増収となっているばかりか、歩合給を採用している以上、賃金規程の改訂によって、減収となる者がある程度出るのはやむを得ないのであって、営業職員の賃金が全体として従前より減少していなければ、それが従業員の利益をも適正に反映するものである限り、就業規則の変更等は合理性を肯認することができるというべきであり、本件においては、前記のとおりの事実が認められるのであるから、原告らの右主張は理由がない。

また、原告らは、本件就業規則の変更等は、集金給与の減額を主要な目的としたものであり、原告らデビットにとっては何ら恩恵のないものであった旨主張する。

しかしながら、本件就業規則の変更等にあたっては、前記のとおり、バンク特約の実施により集金扱契約が大幅に減少する反面、銀行振替扱契約が急増し、集金を担当する営業職員にとっては、今後も集金件数が減少して集金給与面で大きな減収を受けかねないという事情等が存することから、これらに対処するために、固定的給与、比例的給与、集金関係給与を組み替えて本給を大幅に積増し、固定的給与の占率を引き上げることにより、給与の安定化を図り、また、集金関係給与について、<1>集金経費は昭和六二年度以前募集分のものは従来通り支給する、<2>銀行口座振替変更手数料の廃止に対応し、銀振化促進経費助成を一年間設ける、<3>調整手当支給対象者であったSSタイプについては、支給対象契約であった管理扱契約について引き続き調整手当を支給する、<4>エリア管理手当の廃止に伴い、五年間の保障措置を設ける等の経過取扱を行っているのであって、これらの諸点に鑑みれば原告らの右主張は理由がない。

なお、原告らは、本訴において、さらに、本件就業規則の変更等により資格の新設、資格基準に支給S基準の導入、件数控除の強化など新たなハードルが設定された旨主張するが、原告組合自身も、前記のとおり、昭和六三年三月三一日付け回答書において、資格の新設は評価する、支給S基準の導入はやむを得ない、件数控除を含む新契約取扱基準の改訂は承認する旨(件数控除についての新規程は、被告と原告組合との昭和六二年七月一日付け新契約成績計上規程の内容とほぼ同一である。)、それぞれ意見を表明しているほどである。

以上のとおりであるから、本件就業規則の変更等に関し、合理性の不存在を主張する原告らの主張はいずれも理由がない。

4  本件協議約款等の趣旨及びこの効力如何

被告と原告組合との間には、給与等の基準に関する事項を変更する場合は、予め「協議の上」行う旨の労働協約が存するところ(昭和五九年労働協約一四条一項六号、一五条一項)、本件就業規則の変更等は、原告組合に所属する組合員らの給与等の基準に関する事項を変更するものであるから、被告としては、本件就業規則の変更等にあたり、原告組合との間で「協議」を行うことが必要である。また、労働協約上の「協議」すると定められた事項は、右労働協約二一条一項ロに該当し、経営協議会における「協議事項」にあたるが、右「協議」とは、通常いわれる「協議」とは異なり、被告と原告組合との合意を意味するものとされる(右労働協約二一条一項)。

そうすると、被告は、給与等の水準を変更するにあたっては、原則として、原告組合の同意が必要であり、この同意を欠いた労働協約の解約及び就業規則の変更は、いずれも原告組合の組合員に対し拘束力を有しないものというべきである。

しかしながら、右のような約款がある場合に、いかなる場合でも労働組合の同意が得られない限り、使用者は労働条件の変更等をなしえないとするのは相当ではない。右条項は、給与の水準等の労働条件の変更にあたり、労働組合と協議して、その意見を十分に反映させるとともに、使用者の趣旨とするところを労働組合側にも了解せしめ、できる限り、労使双方の理解と納得の上に事を運ばせようとする趣旨と解されるから、少なくとも、使用者が誠意をもって協議にのぞみ、かつ、変更される労働条件等に合理性が認められるにもかかわらず、労働組合の側において正当の理由なく同意を拒むときは同意拒否権の濫用となり、使用者は、右約款の存在にかかわらず、この場合には労働組合の同意を得ずに労働条件の変更を行うことができるものと解すべきである。使用者が、どの程度に誠意を尽くせば労働組合の同意拒否が同意拒否権の濫用になるかは、結局、それぞれの場合の具体的事情に応じて、総合的に判断しなければならないが、要は、使用者、労働組合双方の態度の相関的関係において判断されるべきものであるから、使用者が労働条件の変更の理由等について具体的な説明を行わずにただ変更の要求に固執し、協議の回数を重ねたにすぎないというだけでは、労働組合が同意しなくても、同意拒否権を(ママ)濫用ということにはならないが、使用者が変更すべき労働条件及びその理由等を労働組合に提示し、数回にわたって回答を求めたにもかかわらず労働組合が回答しなかった場合や、あるいは回答をしても何らの理由を示さずに絶対反対を述べるだけであるような場合には同意拒否権の濫用と解すべきである。

これを本件について検討するに、前記認定したところから明らかなとおり、被告は、昭和六二年一〇月、営業職員給与体系の変更を、理由付きの書面により、安田労組及び原告組合に提案し、被告と原告組合との間では、経営協議会や事務折衝(例えば、昭和六三年三月一八日、同月二九日、同年四月一九日、同月二八日)において、「新営業職員制度」について協議が行われ、また、被告から原告組合に対し、同年三月一五日、「『営業職員及び組織長』に関する諸規程改訂の件」と題する書面により、安田労組との間で合意妥結に達した内容での修正提案が行われるなどしたが、原告組合は、集金手数料三パーセントをカットするような集金給与の切り下げは絶対に反対である旨主張するのみで、原告組合からの反対提案等も全くないまま、協議は細部にまで及ばず、同年三月三一日になって、ようやくにして同日付け回答書(<証拠略>)を被告に交付している。

この間、同じ日に同じ提案を受けた安田労組は、中央執行委員会、四役専門部長会議、ブロック別支部代表者会議等を開催して、被告提案に対する安田労組の見解を取りまとめ、同年一月二二日の経営協議会において、修正申入れを複数回にわたって行い、これを受けて、被告も安田労組の申入れを受けた形で当初提案を修正したうえで、再度提案を行う等のやりとりがあったうえ、被告と安田労組は、同年三月一六日には「新営業職員制度」について合意妥結し、同日付けで労働協約付属協定を締結しているのである。

そして、原告組合は、被告から昭和六二年労働協約についての解約申入及び昭和六三年就業規則の適用についての通告があった後も、修正申入れはするものの、通告に対しては格段異議を唱えることもなく、また、同年度の賞与(中元手当)についても被告が昭和六三年度就業規則に基づいて提示しているにもかかわらず、これについても異議等を一切唱えずこれを受給し、いよいよ右就業規則を適用する旨の同年六月二五日付けの被告からの通告に対しても、何らの異議を唱えず、結局、本訴の提起に至るまで、昭和六二年労働協約の解約及び昭和六三年就業規則の適用につき、原告組合において、何らの異議をも唱えていないし、平成元年以降の対応も前記のとおりである。

以上のように、被告においては、当初提案に固執することなく、条件等によっては、譲歩する姿勢を示していたにもかかわらず、原告組合は自己の立場に固執し、反対提案等を行わず、被告と安田労組の間で合意が成立し、昭和六二年労働協約を解約するとの被告の打診を前にして、ようやく被告提案に対し回答するという姿勢であり、その後においても、昭和六二年労働協約の解約及び昭和六三年就業規則の適用につき明確な異議等を述べずに、これを放置していることが認められるのであって、前示のとおり、変更される労働条件に関して、変更の必要性及び合理性が肯認できる以上、原告組合は正当の理由なく同意を拒むものといわざるを得ない。

そうすると、原告組合に同意拒否権の濫用がある以上、協議約款等の存在にかかわらず、本件における昭和六二年労働協約の解約及び昭和六三年就業規則への就業規則の変更は有効であり、昭和六二年労働協約の適用を理由に、差額賃金請求を求める原告佐分利の請求は理由がない。

第四結論

以上のとおりであるから、原告らの請求はいずれも理由がない。

(裁判官 三浦隆志 裁判長裁判官林豊は転補のため、裁判官夏井高人は退官のため、いずれも署名・捺印することができない。裁判官 三浦隆志)

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